ネガティブ状態から抜け出す方法3選 心と体をリフレッシュ

Mental health

私たちは日々のストレスや不安、悩みからネガティブな思考に陥ることがあります。
その状態が続くと、気持ちが沈み、何をするにもエネルギーが湧かなくなってしまいます。
しかし、そんな時でも心と体をリフレッシュし、必ずネガティブな状態から抜け出すことができます。
今回は、そんな方法を3つご紹介します。
誰にでもいつからでもできる簡単な方法です。


自然を感じる <思考のストレッチ>
自己コントロール感を取り戻す <自信の回復>
体を動かす <ストレスに強くなる>


「疲れたら海を見に行く」というエピソードを、一度は聞いたことがありませんか?
実はこの行為は、ネガティブ状態から抜け出すうえで心理学的にとても理にかなった行動です。

人間は言葉で表現しがたい光景や現象を見たとき “畏敬” の念に打たれます。1)
“畏敬” とは、人ひとりの枠を大きく超えるものごとに対して抱く怖れや尊敬が入り混じった感情です。
山頂から見る日の出・一面に広がる星空や大海原を前にしたとき、その光景に圧倒され、我を忘れて魅入った経験はないでしょうか。


そのとき、脳内では「自我縮退」と呼ばれる現象が起きています。2)
自我縮退とは、自己中心的な意識(エゴ)が小さくなった状態で、究極的には自分が環境に溶け込むような感覚をもたらします。
エゴが小さくなった人間は、利己的な行動が減り、思いやりを示す行動が増えます。
他者を気遣う余裕が心に生まれてくるのですね。


「思いやりが増えても、現実の問題は解決しないよ」とおっしゃるのもよくわかります。
しかし、この真のメリットは、自分を中心に狭まっていた視野を外へと広げることです。
人間は思い悩むことを繰り返しているうちに、視野がどんどん狭くなり自分を客観視できなくなります。3)


ひとたび視野が狭くなると、自分独りで問題を抱え込みがちになり、解決の糸口をつかみにくくなってしまいます。
そうしているうちに閉塞感が募り、ネガティブな状態に陥る…ということは誰にでも起こり得ます。
この状態を抜け出すには、一度立ち止まり、視野を広げていろいろな可能性に思いを巡らせる余裕を持つことがとても大切です。

自然と人の精神の関係は科学的にも研究が進んでおり、実際に自然体験の機会が多いほど日々の畏敬の感情が強まるとともに、日常生活の満足度が高まることが明らかになっています。4)
日々自然に触れていることが中長期的な幸福度を向上させること つまり日常のさまざまな問題に柔軟に対処し、人生をより良いものにすることができる ということです。

はじめは、近くの公園や河川敷でも構いません。
朝早く、静けさに満ちた中で眺める日の出の美しさを感じてみてください。
「こんなに地球は綺麗なんだ」そう気づかされるはずです。
そして、落ち着きを取り戻した頭で、日常に戻りましょう。
昨日よりも、穏やかな心で、ずっとうまく問題に対処できる私たちになっています。

自然は、私たちの凝り固まった視野のストレッチし、さまざまな問題に柔軟に対処するための助けとなってくれます。
日頃から自然に身をゆだねる時間を少しずつとることで、ネガティブな思考に囚われた頭を優しく解放してあげてはいかがでしょうか。


朝起きたらベッドを整え、顔を洗い、栄養のある朝食を摂る、日常で軽視しがちな行動を丁寧に行うことで、ネガティブな状態から脱することが出来ます。

今、みなさんに目標があったとして「自分なら目標を達成できる」と信じることができますか?
このような自分に対する信頼感、つまり自信のことを“自己効力感 Self-efficacy”と言います。5)

いわば、やるべきことをやるために自分自身をコントロールできると思えるどうかです。
コントロール感を感じているうちは全てが“何とかなる”と思える一方で、ひとたびコントロール感を喪失すると、日常のさまざまな場面で強いストレスを感じるようになります。
もうどうしていいかわからない… そんなネガティブな状態が続くと精神的な負担が限界を超え、“うつ”、“がん”、依存症や摂食障害などあらゆる病のリスクを高めてしまいます。6)

では、コントロール感を取り戻し、ネガティブな状態から抜け出すためにはどうすれば良いのか?
心理学者アルバート・バンデューラによると自己効力感を高めるための重要な“情報源”が4つあります。7)
遂行経験、代理経験、言語的説得、生理的・感情的状態の4つです。

それぞれの説明は、本節末をご参照いただくとして、このうち最も自分で作り出しやすいのが“遂行経験”です。
遂行経験は、「目標を達成できる」そう思わせてくれる過去の成功体験です。

そう聞くと、私たちはつい困難な目標を達成したような経験を想像しがちですが、遂行経験は大きなものである必要がありません。
例えば、日常のルーティンを定めておいて、それを守るようにしていきます。
玄関の靴は揃えておく・鍵やスマートフォンは、いつもの場所に置いておく・シンクに洗い物を放置しない などなど
自分にとってそうあってほしい状況をイメージし、それをルールにします。

やれば簡単にできるようなことを、いくつも達成していきましょう。
そうすることで、“自分ならやれる”という感覚が自然に蘇ってきます。

日常が整いはじめたら、少しずつルーティンの幅を仕事や学業に広げていきます。
メールや会議資料はフォルダごとに整理する、机の上は整理整頓する、誰かと話すときはその人に向いて話す 自分が“ちゃんとしているな”と感じる人に自分を近づけていきます。

自分がありたい姿を体現することは、まさに自分をコントロールできていることにほかなりません。
その状態の自分を想像してみてください。
ネガティブな感じは、少しもありませんよね。むしろ、今より自信に満ちているはずです。

「なりたかった自分になるのに、遅すぎるということはない」
19世紀の作家ジョージ・エリオットの言葉です。
私たちはいつからでも必ず変わることができ、人生をより良いものにすることが出来ます。

その小さな一歩は、ほかならぬ私たち自身が踏み出すのです。
さて、自分を信じるために、まず玄関を整えにいくのはいかがでしょうか?


  1. Enactive Mastery Experience(遂行経験)
    実際の成功体験を重ねることで、過去の成功を思い出し「またできる」と考える
  2. Vicarious Experience(代理経験)
    他者の成功を見て、自分もできると感じる
  3. Verbal Persuasion(言語的説得)
    他者からの励ましやポジティブな言葉で自信を持つ
  4. Physiological and Affective States(生理的・感情的状態)
    体調や感情は、自己効力感を高めもし、低めもする

「運動は健康に良い」聞き慣れたフレーズですが、それでもネガティブ状態から抜け出すために運動を薦めないわけにはいきません。
運動は、日常のストレスで疲弊した体を癒すとともに、ストレスへの耐性を高めてくれる最高の方法です。

現代を生きる私たちは、日常的になんらかの心配事を抱えています。心配事とは、物理的、精神的、あるいは金銭的といった身の安全を害するあらゆる脅威のことです。
脅威を感じると私たちの体は、アドレナリンとコルチゾールを分泌して体と心に脅威が迫っていることを伝えます。
この機能によって私たちは脅威に備えることができますが、この警報機能がひっきりなしに発動されていると体と心が疲弊してきます。
これがストレス状態で、ストレスにさらされ続けた人が行き着く先がPTSDや鬱です。

しかし、中には同じ脅威にさらされているのに、鬱になる人とならない人がいます。
この秘密は、脳内に存在するNPYと呼ばれる神経ペプチドにあります。
ベトナムやイラク・アフガニスタンに派兵された退役軍人のPTSD患者のNPY量は、健常な人や戦闘を経験しながらもPTSDを発症しなかった軍人のNPY量に比べて有意に低いことがわかっています。8,9)
また、軍隊でサバイバルトレーニング前後や急激なストレスを与えられた前後でNPY量を維持、もしくは増やすことができているグループは、そうでないグループに比べてストレスに柔軟に対処し優秀なスコアを収めていることも報告されています。10)

そう、NPYは人のストレス対処能力、すなわち柔軟性(レジリエンス)を司る物質なのです。
NPYの分泌量は、遺伝やストレスの既往歴によって変わってきますが、幸いなことに生活習慣で増やすことができます。その最も効果的な方法が運動なのです。

ボート選手を対象とした研究では、高強度なトレーニング直後とその後の回復期にNPY量が優位に増加しています。11)
NPY分泌量はトレーニング強度に依存し、高強度なほど分泌量が増えますが、人の感情を落ち着かせるためには軽~中度の運動でも効果があることもわかってきました。12)
ありがたいことですね。

また、少し恐ろしいことをお伝えしますと、身体活動の欠如は軽度の慢性的な炎症状態と関係しています。
これは、運動不足により蓄積する内臓脂肪が皮下脂肪よりも炎症を引き起こし易いからです。13)
通常は、こうした炎症(具体的には血中の炎症性のサイトカイン)は脳にまで届きません。
これは、血液脳関門というバリア機能が働いているからです。しかし、日常的にストレスを抱えていると身体機能が低下し、いずれ血液脳関門も炎症の突破を許してしまいます。14)
ひとたび脳が炎症を起こすと、トリプトファンが代謝され海馬にダメージを与える物質が副生成されます。
トリプトファンは幸せホルモンのセロトニンの原料にもなりますから、セロトニン不足と海馬へのダブルパンチで人は精神的に参ってしまいます。
まさにネガティブ状態ですね。そこで、運動の出番です。


定期的な運動は内臓脂肪の蓄積を防ぐことで、体内で炎症を起きにくくします。
さらに、運動中の筋繊維からは、マイオカインと呼ばれる特殊なサイトカインが分泌されます。
マイオカインのうち、IL-6と呼ばれるものは、抗炎症性サイトカインの分泌を促すので、実際に体が炎症に強くなっていくのです。14)

つまり、運動はNPYの分泌によりストレス対処能力を向上させるとともに、内臓脂肪の削減と抗炎症成分の分泌によりストレスから体と脳を守る働きを持つのです。
運動はあらゆる人に効果的ですが、特に睡眠剤や抗うつ剤を処方されても効果を感じにくい方こそ、その恩恵は大きいものとなるでしょう。

「健全な精神は、健全な肉体に宿る」これは科学的に解明された真実なのです。
運動は、間違いなく私たちをネガティブな状態から解き放ち、健康体へと導く方法です。

この記事も終わりに近づいてきました。
この後は、近場の公園に散歩に行くのはいかがでしょうか?


1) Keltner, D., Haidt, J. (2003), Cognition and Emotion, 17(2), 297-314.
2) Piff, P.K., Dietze, P., Feinberg, M., Stancato, D.M. & Keltner, D. (2015), Journal of Personality and Social Psychology, 108(6), 833-399.
3) Kross, E., (2021), Chatter, The Voice in Our Head, Why It Matters, and How to Harness It
4) Anderson, C.L., Monroy, M., Keltner, D. (2018), Emotion, 18(8), 1195-1202
5) Bandura, A., (1997) : Self-efficacy: The exercise of control. New York : W.H. Freeman.
6) Shapiro, D.H., Schwartz, C.E., Astin, J., (1996), American Psychologist, 51(12), 1213-1230
7) Bandura, A., (1986):Social foundations of thought and action : A social cognitive theory. Englewood Cliffs, New Jersey : Prentice-Hall
8) Sah, R., Ekhator, N.K., Strawn, J.R., Sallee, F.R., Baker, D.G., Horn, P.S., Geracioti Jr., T.D., (2009) Biol Psychiatry, 66(7), 705–707
9) Sah, R., Ekhator, N.K., Jefferson-Wilson, L., Horn, P.S., Geracioti Jr., T.D., Psychoneuroendocrinology. (2014) 40, 277–283.
10) Morgan Ⅲ, C.A., Wang, S., Southwick, S.M., Rasmusson, A., Hazlett, G., Hauger, R.L., Charney, D.S., (2000), Biol Psychiatry, 47, 902–909.
11) Rämson, R., Jürimäe, J., Jürimäe, T., Mäestu, J., (2012) Eur J Appl Physiol, 112(5), 1873-80
12) Lucibello, K., Parker, J., Heisz, J., (2019) Journal of Affective Disorders 247, 29-35.
13: Severinsen, M.C.K., Pedersen, B.K., (2020) Endocrine Reviews 41, 594-609
14) Heisz, J., Move The Body, Heal The Mind: Overcome Anxiety, Depression, and Dementia and Improve Focus, Creativity, and Sleep, (2022) Harvest


最後に

この記事で紹介した内容は、私が過去に経験したつらい状態から抜け出すときに実践した内容です。
流れもそのままです。
深く落ち込んでいるときに、自分を奮い立たせて生活を整えたり、運動したりすることは容易ではありません。
そんなときは、何も考えずに早朝の朝日を眺めに行きます。
そうすると、家に帰ると自然と美味しい朝食が食べたくなります。毎日の生活がなんとか落ち着き始めると、より良い状態を目指して運動に挑戦する気持ちが出てきます。

朝起きるのがつらいという方は、週末に、山でも川でも海でも良いので、自然の中に身を置いてボーっと過ごしてみてはいかがでしょう。
そして家に帰ったら、玄関を整え、美味しい食事をとりませんか?
次の日は、朝起きたらきれいに顔を洗ってベッドを整え、気が向いたら散歩の時間をとっても良いですね。

あなたがあなたらしく過ごせる日が訪れることを、心より願っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

KEI

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民間企業のR&D部門で働いています。 マネージャーであり、研究者でもあります。 趣味は読書と筋トレ

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